スピリチュアルケア誌 76号 2017年9月 |
For a better World
スピリチュアルケアの将来
使命を生きること
1. 現実の認識
「道路や家が出来ても“安全”や“大丈夫”だという保証はない」
現在の世界
著者の住む久留米市のあるバス停留所に次のような標語、「安全で安心のまちづくり」がある。私はそれを見るたびに不愉快な気持ちになる。というのは、安全や安心を保証できる場はどこにもないからだ。この記事作成中にもその事実を新たに体験した。「大雨特別警報Area Mail」が2回スマホに入ったからだった *1 。
世界は安全ではない。2017年「平和憲法70年」を迎えた日本の歴史は誇りである。だがそれも平和の保証にはならない。
最近の情報では世界中で244,000,000人の移住者(migrant)がいる。その中には20,000,000人の難民(refugee)がいた。人道的な配慮を中心にこのような難民を受け入れている世界の状況の中にあって、日本も多文化の受け入れに努力し、それを再考することは今を生き続ける課題であろう。
日本が移住者や難民を受け入れる寛大な国とは言えないことは別としても、難民同様な生活を送っている人々は少なくない。公共交通機関(電車やバス)の車内はスマホを相手にし、周囲には無関心である乗客が目立つ。その様子は他者に関心をもち、受け入れるベースを育成しているようには受け取り難い。
ISの重要拠点があるシリアやイラクのこと、世界中のテロは別としても現在の情報によるとアメリカと北朝鮮の関係は世界に平和をもたらすものではない。北朝鮮の金正恩氏は新型の中距離弾道ミサイルを、米グアム島の周囲に撃ち込む計画を検討していると警告する声明を発表し、トランプ氏との威嚇の応酬が激化している。このような状況は、いくつかの県で避難訓練を実施した日本にも影響を与えているという事実であろう。
7月の「G20首脳会議」はこの事実を新たに突きつけている。各国の関係が一致し、歩みを共にする状況にはない中での7日、国連の交渉会議で核兵器禁止条約は賛成多数で採択された。今後世界が実現させていくほかない新たな課題であるだろう。言い換えれば、人間(自分自身)は関係による存在であることを再認識し、そく実行に移す必要がある。「For a better world !」。
結論として、現代社会や世界は人間を活かす世界や社会とは言いがたい。というのは「共に生きる」ことより、「自分さえ良ければ」という思考に向かい、「多様性を認める」という思考は薄くなりつつあるようである。したがってそのために、人間らしく生きられる社会へと発展していくことへの努力は不可欠である。国内では自然災害(地震や津波)が人々との関係、助け合いを感じさせてくれたこと、さらに2020年、オリンピック開催に向けての協力は相互に尊敬し、理解し合う社会と世界を創り上げるきっかけになるであろう。
2. 自己の存在
自己存在のルーツは関係
人間関係を理解するには自己存在の元を探求すればよい。自己存在のルーツは関係であることがまず分かるだろう。関係なしにはだれも生きられず、また生き続けられない。たとえば、独りで暮らしているとしても、物理的なことを含めた他力によって生きている。言わば関係から生じてきた実存であることを否定できない。
言い加えるが、「関係による存在」は自由意志によるものではないことを意識すれば良い。自己の存在そのものに対して否定的な見方があり *2 、自死や安楽死などに影響を与えている現実もある。逆に存在とともに与えられた使命を見つけ、それを追求し日々、切磋琢磨するほど努力した人物もいる/いた。*3
納得できる人生は日々の課題である。生きていることは当たり前ではない事実を意識する習慣を身に付ければよい。しかもただでいただいている事実も意識すればよい。この認識による行動は内面的な生き方 ~スピリチュアリティ~ のベースになる。言いかえると、心を育成させる行為になる。自己の存在は自分自身ではなく、親を通して命の源からいただいたプレゼントだ。プレゼントであれば、このプレゼント/贈り物には何かの存在意義があるのではないか。それを発見し育成するのは各々のライフワークであろう。
3. 自己の生き方
自己を生きるためにはまず、
・自己との関係を明確にする
・生きる(生きている)ベースの意識化、つまり関係を認める
・生きる目的(関係=ともに生きるか、自己中心に生きるか)を持ち、意識的に生きるように努力することであろう
さらに、内面的に生きるため「存在」についての理解が必要であり、そのために以下を参考に考えればどうか。
自己の存在は、
・自分の行為による結果ではない
・他者との関係に支えられた存在
・コントロールできないが、存在において、存在価値、存在意義を見いだすことはできる
内面的な生き方の育成には、基本的な信念をもって関係を生きることである。
4 スピリチュアリティ
スピリチュアリティとは内面的な生き方である。その内容は、
・生きる意味・使命を発見し、すなわち
・ともに生きられる社会になるように協力し、互いに尊敬し合うことである
・自分の生き方に責任を持つこと
・定期的な反省とリニューアル
・自分の考えの明確化
・自分の明確にされた考えを伝達すること
・他力による存在を認識し(認め)、その意味と目標を模索(探求)すること
・見つけた意味と目標に向かって生きる努力、そのための方法や手段を見つける努力
・信念を持ち、それを追求し続けること
・目標が第一、手段や方法は第二とする信念を確信し、生きること
・自己目標への追求はライフワークとする決意
5 スピリチュアルライフの形成
スピリチュアルライフの要素として、次のような事柄を挙げる。
・スピリチュアルな体験 例:インスピレーション
・スピリチュアルな喜び 例:真実を語ること
・スピリチュアルな痛み 例:真実を意識的に語らないこと
スピリチュアルな痛みを生きること、言わばスピリチュアルな生き方は、好ましくない(ネガティブな)状況に出合ったとき、ポジティブな視点を持つように努力すればよい。たとえば、「なぜ」ではなく「何のために」と考えること。「なぜ」は変えられない過去を中心課題にするので、ほとんどエネルギーの無駄遣いになってしまう恐れがある。それと異なり、「何のために」という思考は将来を指し、エネルギーを生産的に使うことになる。例で説明すれば、Challenge はChanceになり、そのChanceはChangeへ導く可能性になりうる。
6スピリチュアルケア
スピリチュアルケアの必要性と展望
状況/状態に意味を見いだすための援助はスピリチュアルケアワーカーの内面的な生き方が問われ、使命と、責任を持ってともに生きられることは日々の努力による。そのためにはまず、ともに生きることを目標にして、自他の存在を尊敬し、生かし合うこと、その心をもって実行することはスピリチュアルケアワーカーが自身の使命を確信し、その使命を生きたいか、そうではないのかを自問自答しなければならない。
関わりの中で、特に「心理」と「心」の状況を区別することは重要な手助けになる。たとえば「心理」は、楽天家かそれともペシミスト(悲観論者)の傾向なのかに対して、生まれつきのものか、それとも自己の生活の結果であるかどうかを区別できることは大切である。その区別を明確にすることが不可欠である。「心」の問題であれば、すなわち「善」 と「悪」の事柄とその区別が課題になるので単純に判断はできない。自然科学的な問題よりも精神科学的な問題になるため、チームアプローチを必要とするのは少なくない。スピリチュアルケアの豊富な知識と経験を持つことによって、微妙な問題を理解し合う責任重大な機会でもあるからだ。
有効なスピリチュアルケア
自然科学や精神科学が生きる援助~人間関係~となるためには、「用語の使い方」を意識すればよい。「がん」の用語は、一般の人々にとっては自然科学的な事柄(研究課題)ではなく、「命の危険」や「死」の感覚を呼び起こさせる。言わば、精神科学的な課題になっているからだ。精神科学~哲学や神学~ の場合も「用語」の使い方によっては影響を与えるが、その影響力は大分異なっている。例:「スピリチュアリティ」や「スピリチュアルケア」の用語は一般の人々だけでなく、学問を追究する人にとっても「分からない! 」という反応は多い! 「スピリチュアリティ」の代わりに「心」というとき、「気持ち」を考える人は少なくない。「心」は「善悪の場」を指すというとき、理解者はさらに少なくなる。「心」が「善悪の場」であることを説明する必要があることを強調したい。
スピリチュアルケアとは「人間が命の源をはじめとして、その命をパイプラインとして継続してくれた祖先や両親との関係による存在である」ことを意識し、かつ納得しながら人生を生きる努力 ~ライフワーク~ である。存在とは「命の源」との関係から始まる。それは「ともに生きること、相互に生かし合うこと」を意味している。この関係は「我先に」ではなく、互いに尊敬し合う中で自他への関心を持ち、必要に応じて手助けする生き方である。それはスピリチュアルケアのベースになり、その存在意義でもある。
日々尊敬し合い、ともに生きることはスピリチュアルケアの本質であり、そのために「現実」を絶えず意識する必要がある。
スピリチュアルケアにおける重要な点は、
・自分の考えをもち、自己の明確なアイデンティティーを確認し続ける努力をすること
・自分の生きる目的のために必要なこととそうでないことを区別できること
・無意識に自分の価値観を相手に負わせないように注意すること(親子の関係)
・自分の信念を追求し、必要に応じて(勇気をもって)周囲に明確に伝えること
これらの言行一致を目指す内面性をもっている人によるスピリチュアルケアは、社会にとって有益であろう。*4
7 ライフワーク
現代社会に生きること
各自のライフワークは、他者を尊敬しながらともに生きられる社会や世界を創ろうとする努力と協力である。それは趣味的なついでにできる行為ではなく、筆者が健康と暑さに闘いつつこの記事を作成しているのと同様、目標や確信、意志を要求するものである。こうした行為から沸いてくるエネルギーや内面的な平安は金銭では手に入らない。目標、すなわち、意義のある人生をともに生きられるベースをリニューアルする信念と意志が必要とされる。言い換えれば、人生を生きようとするのは、都合によって(ボランティア)協力するのではなく、心身ともの絶え間ない努力、いわばライフワークである。スピリチュアルケアは内面性を豊かに満たしスピリチュアルな人間として生きられるために不可欠である。
ともに生きる/活かせる人間の育成への援助は
内面的な生き方によるスピリチュアルケアである。
スピリチュアルケアの将来性の元とは
・こういう信念を持ち
・ライフワークである
For a better world!
「講師の美しい顔に感心。人間は年齢と共に、その人が生きていた証しが、顔に表れる。講師がこの年齢に至るまで、純粋に一つの目的に向かつて生き抜いてこられたことがその姿と所作、顔の表情から分かった。*5」
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1: 2017年7月5~6日にかけて起きた九州北部豪雨により福岡県朝倉市などで甚大な被害が発生した。
2: 例:Jean-Paul Sartreサルトル(フランスの哲学者)。
3: 例:お釈迦様、イエス・キリスト、アインシュタイン、マザー・テレサ。
4: 前述した20カ国の会合や北朝鮮とアメリカとのコミュニケーションは、ともに生きる刺激になるどころか、互いのエネルギーを無駄遣いする行為であろう。
5: 前述した20カ国の会合や北朝鮮とアメリカとのコミュニケーションは、ともに生きる刺激になるどころか、互いのエネルギーを無駄遣いする行為であろう。