スピリチュアルケアの勉強室 #34 2017年9月 |
自他の日常の行動や言葉から、最も重要な部分をつかむこと
スピリチュアルケアとは、相手が価値のある自己のニーズを発見する行為
前回(スピリチュアルケア誌75号)「学び 33」で取り上げた例を使い、再度検討を加える。
今年初め、ある高齢の婦人から「もう死にたいです」という電話をいただいた。何回かこの叫びを繰り返し聞いたので非常に心配していた。翌日電話をかけ、やっと三回目で相手につながり、少しほっとした。ところがそのとき、「死にたい」ことについての話は出なかった。そして婦人は最後に、「今から押し車で買い物に出かけます。往復二時間かかります…」と言った。私はびっくりして、「助けになったのは何だったのでしょうか」と尋ねた。すると婦人は、「(夕べ)話を聴いてくださったからです」と答えた。
このときは相手の痛みを聞き、その中のキーポイント(相手の実際のニーズを自分なりに探り、提供すること)を相手に参考意見として申し上げることである。私はご本人の悩みの要点をつかんだようだった。
悩みや心配事には中心課題がある。それらをまず自分自身が自己の生活の中で明確にする努力は、援助するときのヒントになることが少なくない。だが、提供する事柄はあくまでも参考であり、必ず効く薬ではないことも忘れてはならない。援助の中心は、困っている相手が自分の困難を整理し、そこから立ち上がれることである。同時に「心配ですね」「大変ですね」とか、「また良くなりますよ」のような慰めの言葉は使わない方がよい。
例えで説明する。ある女性グループはスピリチュアルケアについてはあまり意見を述べない。だが、料理がテーマになると、いつの間にか話が盛り上がる。それも相手のこと(体験)を聞くよりも、自分の体験を聞いてもらうことが優先課題になっている。個人的なことだが、料理に興味がなく、この話題に入ることはない。だがこの話題の中に、女性たちを活かせる事柄(価値観)を探してみる。この努力(姿勢)はまず女性たちにポジティブな印象を与える。
日常の生活で食事を作る行為の中に、自分たちを共感させる根本的なポイントを見つけ、提供しあえば助けになるだろう。次の項目は共に居ること、自由に話せることなどのキーポイントとして挙げられる。
・自分も(料理)できる人として話題を提供でき、仲間(相手)として認められること
・信頼され、(料理によって)家(家族)に必要とされている人
・自己の考えや体験を提供でき、聞いてもらう価値のある人、など。
したがって話題は料理であっても、それを通して人間(自分)にとって不可欠な内面的援助をもらえる。自分は価値のある、必要とされる一人として認められたいというニーズに満たされる可能性があるのではないか。